プロジェクト概要
エネルギー消費量とコストの削減を探っていたCiscoにとって、同社のラボは明白な対象でした。というのも、ラボの総面積は全施設合わせても約213,677平方メートルと敷地総面積のわずか10%ほどであるにもかかわらず、消費電力は会社全体の60%を占めていたからです。製品の開発やテストをはじめ、カスタマーサポートや販売で使用しているラボの年間電力消費量は900MWh、電気料金は8,000万ドルにも及びました。つまりラボは、同社における唯一で最大の温室効果ガス排出源だったのです。
Ciscoのラボは、多様な電力や冷却を要するダイナミックなIT環境にあるという点で、データセンターと似ています。世界各地に位置する同社のラボの敷地面積は、93平方メートルから1,858平方メートル、また、設備においてもラック数台ほどの設備から、数百ものラックが装備されている完全設備のR&D、テスト、販売、サービスラボまで、その規模や設備はラボによって大きく異なります。
Ciscoはラボの消費電力を削減するため、2011年後半から2013年7月までの2年計画を開始しました。プロジェクト承認前に算出した当初のROI(投資回収率)の回収期間は2年。エネルギー管理プログラムの予算割り当てはあったものの、個々のラボプロジェクトで回収のしきい値を示す必要がありました。
同プログラムは、2007年のベースラインから2012年までに温室効果ガス排出量を削減するという、Ciscoが広範に実践するサスティナビリティーへの取り組みの一環です。同社のラボ・イニシアチブは「テクノロジー」、「インフラストラクチャ」そして「ピープルパワー」と3つの要素に大別されます。
テクノロジー
最大の削減要因となったのが、スマートPDU(電源タップ)の導入です。新設ラボはすべて導入対象とし、大規模改装を行ったラボや既存のラボにも設置しました(設置の優先度はROIのしきい値により決定)。常時ONにしておく必要のない装置を自動かつリモート制御できるスマートPDUの導入は、重要な意味を持ちます。スマートPDUによって削減された消費電力は5~60%とラボによって大きく異なりますが、Ciscoによると2013年7月までに11,000台のスマートPDUが設置され、その結果少なくとも年間860万ドルの電気代が節約できる見込みだとしています。また、同社のEnergyWiseインフラストラクチャと互換性のあるPDUを購入したことで、導入の障壁も排除されたとしています。EnergyWiseは、一連のIP接続機器を監視、管理して電力を制御するCiscoのネットワーク技術です。
Ciscoはまた、これまで決して電源が切られることのなかったラボの環境設計検証試験(EDVT)チャンバーの電源をOFFにする自動シャットダウンスクリプトを開発、導入したことにより、さらに25万ドル以上のコスト削減を実現しました。最終的にCiscoは、同社の世界中のラボで使用されている全エネルギーを文書化し、そのデータを各種ツールやアプリケーション、操作ガイドといったテクニカルリソースとともに一元管理レポジトリに保管しました。
インフラストラクチャ
コスト削減要因を特定するため、Ciscoは複数のラボを選び、エアフローに焦点をあてるかたちでエネルギー監査を実施しました。最初に実践されたのが、ゼロコストおよび低コスト型の省エネプロジェクト(レイアウト変更によるエアフロー改善など)です。
これまで計19のインフラストラクチャープロジェクトに資金が投入され、年間総額56万4,000ドルのエネルギーコスト削減が見込まれています。その具体的な内容は以下の通りです。
ピープルパワー
イニシアチブの実施にあたり、多くのステークホルダーから幅広い支持を集める必要がありました。Ciscoのラボで働く従業員は約4万人。彼らに対し同社はコミュニケーション、教育、 報酬、省エネ意識の向上など、さまざまな戦略を採用しました。今回のプロジェクトのために 用意された従業員エンゲージメントツールや戦略は以下の通りです。
Ciscoによると、プログラムの進捗状況は順調というよりもむしろ、ROIや温室効果ガス削減の目標値を上回る成果をあげており、年間900万ドルの電気料金が節約できるとしています。 またラボプログラムは、同社の他組織による省エネプログラムの実践に向けた青写真を提供してきたということです。
Ciscoは、人とのつながりやコミュニケーション、コラボレーションのあり方を変革する、ネットワーク分野の世界的リーダーです。同社では、インターネットプロトコル(IP)をベースとしたネットワーキング機器をはじめ、通信や情報技術(IT)に関連する製品を設計、製造、販売し、それらの製品や使用に関するサービスを提供しています。