国立天文台岡山天体物理観測所

KVM-over-IPスイッチ、国立天文台が採用

岡山県にある、国立天文台岡山天体物理観測所では、最近までいわゆる「クラシックモード」で観測が行われていました。観測時間を割り当てられた研究者が、観測所を訪れ、望遠鏡や機器を操作して必要なすべてのデータを収集し、帰ってくるという手法です。望遠鏡や観測装置を操作するコンソールは、3台のPC、キーボード、マウス、スピーカー、6台のフルHDモニター、その他いくつかの関連機器で構成されます。

しかしながら、この「クラシックモード」には欠点があります。研究者の現地への移動を必ず必要とするため、緊急を要する観測や、長期のモニター観測を実現しにくいのです。緊急を要する観測対象には、突発天体があります。発生後、数時間で見えなくなってしまう、ガンマ線バーストが代表例です。モニター観測は、対象とする天体を、必要な頻度で何度も観測する様式のことです。太陽系外の惑星を探す観測が代表例で、岡山天体物理観測所では、数百の恒星を、数週間おきに観測するプロジェクトが推進されています。

「クラシックモード」のもつ欠点は、「リモートモード」が解消します。「リモートモード」は、研究者がネットワーク越しに、遠隔地にある望遠鏡や観測装置を操作する観測様式です。同観測所は、「リモートモード」を実現するためインフラストラクチャを改善する取り組みを行い、研究者が現地を訪れず188cmの反射望遠鏡や観測装置などのミッションクリティカルな機器に、いつどこからでもアクセスできるようにすることで、研究者からの多様な要請に応え、天文学的成果の拡大に貢献したいと考えていました。

同観測所の担当者たちは、これまでの方法に取って代わるソリューションを探し始めました。そこで注目したのが、KVM-over-IPスイッチです。

188cmの反射望遠鏡とKVM-over-IPスイッチ:課題

岡山天体物理観測所の担当者たちが初期の設計コンセプトを描き終わったころ、いくつかの要件が浮かび上がってきました。遠隔からのアクセス性は言うまでもなく最優先事項ですが、ネットワークセキュリティや情報セキュリティ、そして現場の職員の安全を犠牲にするわけにはいきません。

パフォーマンスという点についても、フレームレート、観測効率、その他あらゆることを考慮しなければなりません。観測所の担当者たちは、設計コンセプトにうまく収まるソリューションが必要なだけでなく、問題の原因となり得る要素を最大限にクリアしておかなければならなかったのです。

KVM-over-IPスイッチの採用

長期にわたる検証の末、KVM-over-IPスイッチはすべての問題に対応できるシンプルで、安全で、手間のかからないソリューションであると結論づけました。

大きなメリットは、遠隔観測者がリモート観測を容易に始められることです。遠隔観測者がするべきことは、自分のPCから、Webブラウザを介してKVM-over-IPに接続し、メニューリストから利用を希望するターゲット(PC)を選択することだけ。ターゲットには、188㎝望遠鏡の制御PCや、観測装置の制御PCがリストされています。すると、遠隔観測者のデスクトップに選択したターゲットの画面が表示され、機器の操作が開始できるのです。遠隔観測者のPCには、クライアントソフトウェアが自動的にダウンロードされるので、観測者は個々のデスクトップにクライアントソフトウェアをインストールする手間がなく、非常に便利です。

最大8人の遠隔ユーザーが同じターゲットに同時にアクセスできます。つまり高速インターネット接続が利用可能である限り、地球上のどこからでも研究者が観測に参加することができます。共同利用されている機器に問題が生じた場合、観測所の職員が自宅からでも外出先からでもトラブルシューティングしてくれるので、無駄な時間が大幅に短縮され、観測者の満足度を向上させています。

情報漏洩も防ぐことができます。KVM-over-IP はユーザー管理機能をそなえているので、ターゲットへの接続者を意図的に絞り込むことができます。競争の激しい研究分野では、観測天体の名前が外部に漏れることを嫌います。観測を割り当てられた日以外に、当該研究者の遠隔アクセスを禁じることで、同様の研究をしている別の研究者に盗み見られる事態を回避できるのです。

リモート観測機能にありがちな観測効率の低下は無視できるほど小さいため、皆が例外なく、常に最良のエクスペリエンスを享受できます。岡山天体物理観測所の「リモートモード」は、2016年の公開以来利用者が増え続け、2017年前半期には全観測時間の半分を占めるに至っています。

出典:「Remote observing environment using a KVM-over-IP for the OAO 188 cm telescope」
著者Kenshi Yanagisawa, Goki Inoue, Daisuke Kuroda, Nobuharu Ukita, Yoshihiko Mizumoto, and Hideyuki Izumiura (国立天文台 岡山天文物理観測所)
SPIE 9913, Software and Cyberinfrastructure for Astronomy IV, 991330 (2016年8月8日)

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